これまで述べてきたように現代社会は多くの矛盾に満ちていますが、社会的連帯経済という新たな社会のひな形も生まれている時代です。しかし日本は世界の潮流から取り残されています。今の日本に必要なのは社会変革により世界の潮流にたどり着くことです。ここでは日本社会に必要な社会変革について述べていきます。このページは専門家向きですができるだけ平易に説明したいと思います。

社会的連帯経済は資本主義とは全く異なる社会です。例えば、株式会社の役割を果たすのは協同組合企業であり、その中でも労働者協同組合が特に重要です。しかし日本にはいまだ労働者協同組合法(労協法)さえないのです。あとからきた韓国にも追い抜かれました。欧州には製造業、建設業などの製造業分野で100年以上の歴史をもつ労働者協同組合が多く存在します。従ってたとえ近い将来に労協法ができたとしても、欧州の労働者協同組合に近づくのは容易ではありません。

そこで方法があります。労働者協同組合企業を1社ずつ新設するよりもはるかに近道です。それは株式会社を従業員所有企業に転換する道です。現在ある株式会社の株式を倒産時に従業員が買収し、従業員所有企業に転換していくのです。これが可能になるのは、金融危機により多くの企業が倒産の危機を迎える時期です。いずれ必ずそのチャンスがくるでしょう。そのための仕組みを今から用意しておくことが必要です。この従業員所有企業をその後に労働者協同組合に転換すればいいのです。大企業の労働者協同組合はこのプロセスで形成するしか方法はないでしょう。

世界には倒産企業を買収して従業員所有企業に転換する例が多くあります。私がこの企業買収の最初の講演をしたのは大阪の地域ユニオンの人たちからの依頼で行った約20年前の1999年2月です。アメリカ、イギリス、スペイン、イタリア、カナダなど世界各国の従業員買収について述べた以下の原稿を基礎に話しました。今でもこの原稿は全体としては意義があると思っています。下線部分をクリックすれば原稿がでてきます。

  津田直則[1999]「従業員買収と従業員所有企業」(1999年2月講演の基礎になった原稿)

その後、本格的にこの従業員買収や従業員所有企業の研究を拡大する必要を感じ、以下の2012年や14年の拙著で章として入れました。これら著書を書くに至った私の研究歴については以下の2015年7月の拙稿をご参照ください(下線部分)。

  津田直則[2012]『社会変革の協同組合と連帯システム』晃洋書房、第1章参照.
  津田直則[2014]『連帯と共生-新たな文明への挑戦』ミネルヴァ書房、第5章参照.
  津田直則[2015.7]「自主管理に魅せられた45年間-未来体制への展望」『葦牙』41号.

このホームページ内「広域ネットワーク」の最後で書いたように、日本の生活困窮者支援事業ネットワークは現状から更に格上げする必要があります。労協法と同様に、欧州レベルで実施されている社会的協同組合の実状に照らしてあまりにも遅れているからです。具体的に必要なのは、生活困窮者の就労を福祉のレベルから雇用のレベルに格上げすることと、居場所づくりを真の生きがい活動や自己実現の活動に格上げすることです。

しかしこのギャップを埋めるのは容易ではありません。日本と欧州の間にある人権レベルの格差と法制度レベルの格差が大きすぎるために、このギャップを埋めようとする運動が理解されないためです。時間をかけるしか方法はありません。

協同組合の拡大
労協法(労働者協同組合法)の成立が次第に迫ってきました。それとともにいずれ協同組合のナショナルセンターもできるでしょう。協同組合は社会的連帯経済の中心になるべき存在です。欧州各国のように製造、建設、運輸などの産業にも協同組合が広がっていかねばなりません。日本の協同組合がなぜ発展しないのか研究者はもっと真剣に研究すべきです。

協同組合の町・社会連帯経済の町の形成
日本には生協の町と呼ばれるところはいくつもあります。兵庫県のコープこうべやワーカーズコレクティブと一体となった国立市の生活クラブ生協などです。しかしこれらの町は生協の町であっても協同組合の町ではありません。

これに対して世界には、各種協同組合が混在している協同組合の町や、各種非営利組織が存在しており社会的連帯経済の町と呼ばれる都市や州があちこちにあります(このホームページ内「新たな社会の経済体制」又は「テーマ別論文・講演」の海外協同組合コミュニティ・社会的経済の実例を参照)。

日本と世界を比較すれば、一目瞭然です。日本は井の中の蛙なのです。世界を知りません。これを克服するところから社会変革は始まります。目標は具体例があちこちにありますからわかりますが、実現は容易ではありません。それは意識の変革が必要だからです。必要なのは、各種協同組合が協力・連帯し合い各地に協同組合の町を形成することから始め、非営利組織と協力・連帯しあい社会的連帯経済の町を形成すればいいのですが、実現できないのは各種非営利組織がバラバラで縦社会を形成して連帯しないからです。賀川豊彦が描いた協同組合国家は決して妄想ではありません。その具体例はすでに世界各地にできているのです。

大規模仕入れ機構の創設
日本の生協は府県単位の領域で事業をする制限を法律で決められています。そのために全国規模のスーパーの事業高には太刀打ちができないのです。それは仕入れ価格にも影響しマーケットシェア競争に敗れているのです。しかしこの壁を打開する方法はあります。生協が連帯して1兆円の仕入れ機構を作るのです。生協それぞれは独立しているが仕入れを合併することにより仕入れ価格を引き下げるのです。イタリア生協はこれに成功しスーパーを上回るトップの座を勝ち取りました。最も重要な商品から始め拡大していくことによって1兆円は決して夢ではありません。イタリアは9生協で2兆5千億円の仕入れ機構を築き上げました。

連帯システムの形成
協同組合のナショナルセンターが形成で来たら次にしなければならないことがあります。それは協同組合全体を発展させるための「連帯システム」を形成することです。協同組合は単体で株式会社と競争すると勝ち目はありませんが、連帯して強固な仕組みを形成すれば負けないのです。これは経済学の教科書にはどこにも書いてありません。私が欧州の協同組合を実証研究して発見したことです。この点を連帯の視点からもう少し詳しく話しましょう。

連帯という言葉にはいろいろな意味があります。弱い連帯から強い連帯まであります。理念としての連帯もあればそれを実現する制度やシステムとしての連帯もあります。資本主義を超える社会は競争社会ではありません。協力・連帯社会です。この協力・連帯社会は理念部分と制度・システム部分に分かれ相互一体となります。日本はこの理念部分についても、制度・システム部分についても、欧州には遠く及びません。これは次の協同組合専門誌『にじ』で述べました。関心のある方は以下の拙著下線部分をクリックしてお読みください。

日本がこの連帯システムを築けない原因は、何度もいうように協同組合を中心とした非営利組織が連帯しないからです。モンドラゴン協同組合やイタリア協同組合が連帯システムを持っているのは協同組合が連帯しているからです。日本と欧州の連帯システムにどれくらいの差があるかを以下の原稿では具体例を挙げて説明しています。

津田直則[2016]「連帯の理念・仕組みの類型」JC総研『にじ』No.6555(特集:協同から連帯へ)

新たな社会の形成は非営利組織が中心になるために非営利組織の自覚と意識改革が不可欠です。日本の非営利組織は自分が何者であるかにいまだほとんど気づいていません。非営利組織が目覚めなければ新たな社会の形成は不可能だといっても過言ではありません。まず非営利組織の理念・価値観の自覚が必要であり、その次は非営利組織の連帯の重要性に気付くことです。そこから新たな文明である社会的連帯経済に向かう道が生まれます。

この運動の先頭に立つのは協同組合と労働組合の連帯組織です。なぜならば、新たな社会である社会的連帯経済の中心は協同組合であり、株式会社に代わる労働者協同組合は特に重要であるのと、そこで働く労働者を支援する労働組合も同様に重要であるからです。

以上で新たな社会を築くために日本で必要な社会変革について述べてきました。すなわち企業買収による従業員所有企業形成、生活困窮者支援事業ネットワーク、協同組合ナショナルセンター創設と戦略、非営利組織を目覚めさせるという4つの社会変革です。5つ目の社会変革は、以上の4つの社会変革を実現する手段としての4段階ネットワーク論です。この4段階ネットワークとは、生活圏のネットワーク、府県単位の広域ネットワーク、府県単位の広域ネットワークをつないだ全国ネットワーク、全国ネットワークを基礎にした国際ネットワークのことです。詳しくは次の拙稿をご参照ください(下線クリック)。

  津田直則[2016.12]「社会変革の全国ネットワーク構想」協同総合研究所『協同の発見』289号.

これらのネットワーク論は「ボトムアップ方式」と「連帯」を重視しています。ボトムアップ方式とは、生活圏の市民社会を重視してこれを基礎として府県単位の広域ネットワークとつなぎ、更に全国ネットワークへと拡大するという意味です。全国ネットワークからトップダウンで始めるのではありません。時間がかかっても新しい社会はあくまで市民社会が基礎です。

次に連帯とは緩やかな連帯を意味しています。緩やかに協力し合うことが基礎であり、全てにわたり団結して闘うといったやり方では大きなネットワークは形成できません。しかしネットワークに参加する組織が共有するのは新しい社会の理念・価値になるでしょう。共有するものがなければ連帯はできません。従って理念をめぐる議論は最も重要であり疎かにしてはならないでしょう。