このページでは資本主義社会のさまざまな矛盾を超える新たな社会について考えていきます。新たな社会はすでにこの世に誕生しています。このページでは日本にはまだ誕生していない新たな社会のひな形を画像でもご紹介します。以下の説明は、資本主義経済体制、資本主義の矛盾と危機、新たな社会の経済体制、協同組合の町・社会的連帯経済の町、新たな社会の文明的特徴という順序で展開していきます。このページは研究者を対象としたページですが、できるだけ平易に説明したいとおもいます。

 

経済体制とは何でしょうか。経済体制とは、ある社会を構成している根本的な思想と制度やシステム全体を示す用語です。社会は、経済制度や経済システムが中心になるために経済体制となるわけです。現代社会は資本主義社会といわれますが、資本主義経済体制とはその根本的思想、制度、システム全体からなる体制を示す用語です。具体的には私は次の5項目からなると考えています。 

 第1は自由主義という思想です。新自由主義ともいわれています。第2は株式会社を中心とした営利企業です。第3は競争システムです。自由主義と一体となった自由競争は経済学理論の根底をなしているシステムです。第4は市場システムです。市場における需要と供給で価格がきまるという仕組みは、自由競争と一体となって経済理論を構成しています。第5は国家と政策です。国家権力を基礎にして、市場システムで解決できない問題を政策で取り組むというのが経済学の考え方です。以上の5つの思想と制度・システム全体は資本主義経済体制を構成しています。これら5つはどこの資本主義国でも共通の原理であるために、資本主義経済のパラダイムともいうことができます。資本主義を擁護する立場からはいわば不可侵の原理だともいえます。

しかし資本主義経済は多くの矛盾を抱えており多くの危機を孕んでいます。新たな文明への転換期であるという人も次第に増えています。それはなぜでしょうか。また世界はどこに向かっていくのでしょうか。

結論を先取りしていえば、経済システムの危機、人間性の危機、地球環境の危機などの現代の危機が深刻になっている原因は、上で述べた資本主義パラダイムがこの危機と直結するようになってしまったからです。具体的に言えば、自由競争は果てしなき戦いの世界であり、強いものが勝ち残り、富の格差・排除・貧困を生み出しています。自由競争と営利企業の組み合わせは、少数者による富の支配を生み出しています。営利企業の巨大金融資本は、バブルの形成・崩壊を繰り返す飽くなき欲望の主体です。自由競争市場は、臓器取引のように取引してはならない公益の世界まで市場化してモラル・倫理を崩壊させています。大きな政府も小さな政府も失敗し、市場の失敗が大きくなって政府による政策では多くの問題が解決できなくなっています。マーケットシェア競争は、資本主義的大規模生産による自然破壊を激化させ地球環境が狂いだしています。働く者に希望を与えた映画三丁目の夕日の世界はもはや遠い昔の世界です。資本主義のパラダイムは変革するしかないところまできているのです。

変革するとして、新たな社会のパラダイムとは何でしょうか。資本主義経済のパラダイムとどこがどう違うのでしょうか。人間を幸せにするパラダイムというのはありえるのでしょうか。それを実現する経済体制というのはあり得るのでしょうか。次にこの問題に移ります。

新たな社会のパラダイムのひな形はは既にこの世に生まれています。欧州では国によっては(例えばイタリア)国民の誰もが知っている「社会的経済」ないし「社会的連帯経済」という世界の理念・価値及びそれを実現する制度・システム(つまり経済体制)のことです。日本ではまだほとんどの人が知りません。社会的連帯経済の理念・価値とは具体的には、民主主義、参加、公正、連帯などをいいます。これらの理念・価値はいまだ進化・創造の過程にあり変わっていくでしょうが、資本主義経済における自由重視や営利企業のとは全く別物です。根本に正義や公正があるからです。これらの理念・価値を実現する制度・システムも欧州では生まれています。例えば、スペイン・バスクのモンドラゴン協同組合やイタリア協同組合などにおいてです。これらの協同組合では多国籍企業さえ存在していますが、株式会社の世界とは全く異なった制度・システムを連帯によって築いています。

私はこの制度・システムを「連帯システム」と呼んでいますが次のような仕組みです。社会的連帯経済は非営利組織の集まりです。その中心は協同組合であり、これは資本主義経済の株式会社にあたります。資本主義経済では企業は単独でそれぞれ競争していますが、社会的連帯経済では企業(つまり協同組合)は協力・連帯しあい、連帯の仕組みによって効率を上げ株式会社に負けないようにシステムを形成するのです。

例えばモンドラゴン協同組合には、雇用の連帯、報酬の連帯、不況克服の連帯などの仕組みがあります。雇用の連帯は、グループで失業者を出さない仕組みです。かつての日本企業のように、失業者が不可避になると配置転換によって職場を変えて雇用を守るのです。次に報酬の連帯は、初任給の報酬と経営トップの報酬の格差をモンドラゴン協同組合全企業で決めて新企業もそれを守る契約を結ぶという制度です。最初はその格差はなんと3倍でした。今ではその格差は広がっていますがそれでも3倍を守る企業が大部分です。公正と連帯という思想からこの原則が生まれました。

イタリア協同組合にもいくつもの連帯システムがあります。例えばコンソーシアムという仕組みです。これは企業がグループを形成して単独ではできない仕組みを実現することです。イタリアにはこのコンソーシアムは沢山ありますが、1例としてコープイタリアがあります。日本の生協にあたりますが、9つの生協がコンソーシアムによって個々の生協は独立しながら2兆円を超える仕入れ機構を形成し、マーケットシェア17-18%を実現したのです。日本では最も高い食品のマーケットシェアでも4-5%です。モンドラゴンとイタリアの協同組合における経済体制についての詳しい内容は次の文献をご覧ください。以下の下線をクリックすれば見ることができます。

津田直則「モンドラゴン協同組合-連帯が築くもう一つの経済体制」『世界』2012年11月号.

津田直則「イタリアの連帯思想とその実践-ボローニャ大学J.マルゾッキ教授講演をめぐって」季刊『変革のアソシエ』No.32、2018年3月.

欧州では社会的連帯経済という世界は、既にGDPの10%を超えている国が増えています。社会的連帯経済は非営利組織の集まりであり、生協、農協、NPO、信用組合などの集まりですから誰でも知っているはずですが、日本ではこの世界はあまり認知されていないために無視されているのです。その理由は、欧州の社会的連帯経済に比べて日本の非営利組織集団はそれぞれが孤立して連帯の形を形成しておらず、衰退の傾向さえあるからです。政府も株式会社重視の方針から、非営利組織が拡大することを望んでおらず、会社法を適用して株式会社化を図る傾向が強まっています。

社会的連帯経済の町や社会的連帯経済の中心である協同組合の町の実例を画像で見ることにします。モンドラゴンやイモラでは社会的連帯経済といわず、社会的経済と呼んでいます。下線部分をクリックするとパワーポイント画面が出てきます。

 

協同組合
と社会的経済の町
モンドラゴンの町 イモラの町 マレーニの町

 

協同組合の町であり社会的(連帯)経済の町であるスペイン・モンドラゴン  

協同組合の町であり社会的(連帯)経済の町であるイタリア・イモラ  

協同組合の町であるオーストラリア・マレーニ  

以上の町の詳しい説明は、「テーマ別論文・講演」のページの「海外協同組合コミュニティ・社会的経済の実例」に掲載されていますのでご覧ください。

 

社会的連帯経済は資本主義を超える新たな社会のひな形であり新たな経済体制としての要素を備えていますが、新たな文明のひな形でもあります。この点について最後にお話しします。

このページで述べてきたように、資本主義経済のパラダイムは矛盾を拡大させいくつもの危機をもたらしている一方で、資本主義経済の内部から社会的連帯経済という新たな経済体制のひな形がが生まれて拡大しています。しかもこの新たな経済体制の理念・価値は、資本主義の自由中心の価値観とは異なり、民主主義、参加、公正、連帯などを含んでおり、これが新たな社会の文明の基礎になると考えてよいのです。公正や連帯は正義という価値観にもつながります。資本主義経済で失われてしまった正義は新たな社会の中で育つ環境を与えられていると考えてよいでしょう。これらは資本主義の中で苦しんだ人たちが自分たちのニーズとして生み出した理念であり価値です。

新たな社会の文明的価値観はこれから更に創造を伴って体系化されていくでしょう。そこに我々人間の自由があります。以下は私自身が考えた新たな社会の理念・価値思想の試論であり、新たな社会のパラダイムです。この議論を資本主義経済のパラダイムから新たな社会のパラダイムへの転換として説明します。

表1 資本主義経済体制のパラダイム変革

① 自由主義思想は愛,正義,自由の思想に転換する。
② 営利動機は真の人類の目的に関係した動機へと転換する。
③ 株式会社は,1株1票に代えて1人1票の民主主義を基礎にした協同組合に転換する。
④ 競争システムに代えて連帯・協力のシステムを導入し公正の実現をめざす。
⑤ 市場機構は公益基準に従い規制し,資源の有効利用のために計画を導入する。
⑥ 国家と政策の仕組みについては,貧困と憎悪の原因となっている格差社会をなくすため,国際的な富の分かち合いの原理を導入するとともに,公平な政治を行う政府を監視するために3権分立の他に監査機構を導入する。

以上の変革の方向から、新たな社会のパラダイムを形成する以下のような価値体系を考えました。導出のプロセスについて関心のある方は以下の論文をご覧ください。( )の中は新たな社会を形成するに必要条件としての価値の領域です。

表2 新たな社会のパラダイムを形成する価値体系

① 愛,正義, 自由,社会的公正,公平,平等(連帯社会の原点の価値)
② 連帯,互恵,団結,救済,協力,支援,合意,賛同(分かち合い社会の価値)
③ 個と全体,私益・共益・公益の調和,人間の社会的統合(調和・共存社会の価値)
④ 民主主義,参加,共存,共生,信頼,絆(人間を大切にする社会の価値)
⑤ 誠実,配慮,思いやり,寛容,優しさ(倫理・モラルを大切にする社会の価値)
⑥ 働きがい,生きがい,労働の人間化(働く者を大切にする社会の価値)
⑦ 共生,保護・保全,美しい,やすらぎ(自然と人間の共生社会の価値)

 従って、資本主義を超える新たな社会の文明的特徴としては次の3つが出てきます。

表3 新たな社会の文明的特徴

① 連帯社会は,もの・かね重視の世界から精神的価値重視の世界への移行である。
② 連帯社会は,普遍的な価値体系の実現をめざしている。
③ 連帯社会は,エゴ社会から利他社会へという形で人類の進歩をめざしている。

社会的連帯経済が新たな文明のひな形です。その根拠は次の点にあります。

表4 社会的連帯経済が新たな文明のひな形である理由

① 非営利セクターという共通性(利潤は目的ではない)。
② 非営利セクターは競争ではなく協力・連帯を重視する。
③ 構成員は特に民主主義,参加,連帯,公正等の価値を共有している。
④ 共益、公益、共同所有の重視(私益ではない)。
⑤ 歴史的には,18世紀以来の地域社会の市民ニーズに応えるところから始まっている。

以上の経済体制論とその中心の連帯システム、及び新たな文明の議論に関係する論文は以下の通りです。下線をクリックすれば出てきます。

津田直則「連帯社会への道ー新たな文明への挑戦」総合人間学会編『コミュニティと共生』2016年.

津田直則「資本主義を超える経済体制の形成に向けて」日本法社会学会編『持続可能な社会への転換期における法と法学』(法社会学第81号)2015年.

津田直則「『社会変革の協同組合と連帯システム』の方法論」JC総研『にじ』No.637、2012年春号.